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PRESS RELEASEプレス情報

2022年2月28日 セメント新聞

補修・補強フォーラム10周年

 コンクリートメンテナンス協会(JCMA・徳納剛会長)は、一般社団法人として発足した2011年度から毎年、全国の主要都市で「コンクリート構造物の補修・補強に関するフォーラム」を開催してきた。同フォーラムは、徳納会長を中心に、わが国のインフラ構造物が置かれた状況に危機感を高めた技術者、学識者らの有志が試行錯誤しながら始めた啓蒙活動であり、テキストは手作り(毎年改訂)、参加費は無料。3年目の13年度には会場が全国28ヵ所に増加、参加者も2000人を超える規模に成長し、その後も規模は拡大していった。20、21年度はコロナ禍のためオンライン開催となったが、19年度までのリアル会場では延べ36000人の参加者を集め、20年度のフォーラム動画視聴数は32700件に上ったという。コンクリート構造物の維持・補修に関する認識が希薄で必要な知識が共有されていなかった当初から、コンクリート技術者と発注者や地域社会との橋渡しとなってきた同フォーラムの意義はきわめて大きい。本特集では同フォーラムの10周年を記念し、徳納会長をはじめフォーラムと関わりの深い各氏にご寄稿をいただいた。

2022年2月28日 セメント新聞 補修・補強フォーラム10周年 | プレス情報 | 福徳技研株式会社

コンクリートメンテナンス協会 徳納 剛 会長
「定量的」な補修へ

設立の経緯
 一般社団法人コンクリートメンテナンス協会の本部は広島にあります。
 1997年、当時、広島県にはコンクリート補修に関る業者の協会はありませんでした。それで有志21社が集い、広島県コンクリートメンテナンス協会を設立しました。広島県は海砂による塩害、そして山間部では降雪が多く、凍結防止剤や融雪剤による塩害が多い地域です。また、瀬戸内側ではアルカリシリカ反応による劣化が多い地域で、インフラの整備に必要と考えたからです。
 当時採用されていた一般的な補修工法は、断面欠損があれば断面修復をし、ひび割れにはエポキシ注入をするという、物理的な対処工法が主流でした。その結果として、補修と再劣化をくりかえしていました。
 「劣化には劣化の原因がある。塩害・中性化では劣化因子(塩分・二酸化炭素)が腐食発生限界を超えて入ると、不動態皮膜が破壊され鉄筋が腐食する。定量的に鉄筋腐食を抑制するする工法で対処すべきである。」と思っていたころ、亜硝酸リチウムと出会い、協会で積極的に取り組む工法とすることにしました。
 亜硝酸リチウム工法の講習会を広島で開催したのですが、定量的な補修の考え方は理解してもらうのが困難で、なかなか採用には至りませんでした。コンクリート補修の専門的知識の少ない発注者やコンサルタントの方々には、劣化のメカニズムから理解して頂かないと補修の考え方までは理解されないと思い、当時、京都大学で宮川豊章先生の下で学んでいた(株)極東興和の江良和徳氏を講師に招聘し講習会の開催を重ねました。そして、広島県内で次第に私たちの定量的な補修方法が理解されるようになりました。
 県外からの問い合わせも増えるようになり、2011年、(一社)コンクリートメンテナンス協会を設立し、宮川先生をメインの講師にお招きして、東京・大阪・名古屋・福岡・等々の全国主要都市で「コンクリート構造物の補修・補強に関するフォーラム」として開催する事となりました。

フォーラムの概要
 フォーラムの内容としましては、宮川先生からの「協会は得意な工法に偏ってはいけない。」というご助言を受けまして、電気防食工法をはじめとする様々な工法や材料を公平かつ総合的に紹介することとしました。また、当初より国土交通省から講師を派遣して頂いて、国が進める「国土強靭化計画」やそれぞれの整備局特有の政策のお話をご講演頂くようになりました。現在、内容も豊富になり、東京・大阪・広島・福岡では二日間の開催として多くの講師の先生方にご講演を頂いています。
 フォーラムの会場数と参加者の推移は、2011年は東京と西日本を中心に6都市で開催して参加者総数は1000人でした。2012年は東京のほか初めて大阪・福岡・新潟で開催し、15都市で1500人の参加でした。2013年は25都市で参加者数は2000人となりました。2015年からは基本的に整備局がある都市で開催することにしました。そして、2019年は全国15都市で開催して参加者は8000人となりました。
 2020・2021年はコロナ禍の影響で対面でのフォーラムは中止いたしましたが、オンラインでの開催を行いました。2021年は29講演で20CPD単位を取得可能となり、多くの方に視聴いただいております。
 フォーラムを始めた当時は認知度も低く、開催方法や会場選びも暗中模索の状態でした。「会場に着いたら机も椅子もない」、「会場についたらプロジェクタがない」、「会場についたら運営スタッフが一人もこない」などの困難に直面したこともありますが、そのたびになんとかギリギリで乗り切ってきました。2013年は25都市開催という過密スケジュールとしましたので、私と江良講師の二人で車に講演資材を積んで、「広島から移動~会場設営~フォーラム本番~後片付け~次の開催地へ移動~宿泊~会場設営~」を無限に繰り返していました。移動の車中でよく「旅芸人の気持ちが分かるね」と冗談を言ってたことを思い出しますが、今思えば当時の試行錯誤の経験のおかげで現在のフォーラムの形があると考えています。

今後に期待すること
 今後のテーマの一つとして、「カーボンニュートラル」に貢献することを考えています。セメント製造時に多くの二酸化炭素を排出します。コンクリートを補修して構造物の健康寿命を延ばすことは、構造物を作り直すことで多くのセメントを使用することと比較すると二酸化炭素排出量の減少に貢献します。また、補修間隔を延ばすことで、補修時の二酸化炭素の排出削減につながります。今後、「コンクリート構造物の補修・補強に関するフォーラム」では、コンクリート構造物の健康寿命を延ばすことの重要性を多くの技術者に理解して頂けるようにしたいと思っています。

京都大学 宮川 豊章 特任教授
メンテナンスは面白い 対症療法でない補修補強へ

 わが国で補修・補強と言えば、20年以上の歴史を持つ日本材料学会の「コンクリート構造物の補修、補強、アップグレードシンポジウム」が知られています。しかし講習会で最も長いのは「コンクリート構造物の補修・補強に関するフォーラム」でしょう。
 「花の建設、涙の保全」という言葉がありました。それは新設のみが必要で脚光を浴びていた時代の話。その頃補修・補強と言えば、対象とする構造物の元施工会社がサービスで行うような雰囲気がありました。マーケットとして成り立っていなかったのです。しかし、白紙から始められ定食である新設に対して、制約条件の多い一品料理であるメンテナンスは技術者にとって面白いのです。身近な簡単な作業から思う存分腕を振るえる困難なテーマまで勢揃い。やる気のある技術者にとっては武者震いするところです。昔風の技術者の考えが邪魔しないことを祈るのみです。補修・補強は日陰の存在で、表立って議論されるようなことはありませんでしたが、シンポジウムで市民権を得、マーケットが成立し始めました。その後全国津々浦々まで広めようとしたのがフォーラム。メンテナンスのシナリオを踏まえた、対症療法ではない劣化メカニズムに応じた補修・補強の必要性の広報を、国交省の各地整とも連携を取り全国展開しているところが実効的に高く評価できます。
 フォーラムは10年を経過しましたが、さらなる発展を期待しています。現在デジタルトランスフォーメーション(DX)が大きく推進されています。DXによって社会を変化させるSociety 5.0の概念が2016年に打ち出され、コロナ禍がこれを加速。さらに国交省が整備を進めている現実の都市をデジタル空間に再現する「Project PLATEAU」はサイバーインフラなどとして試行が進んでいます。サイバー空間において作業することは重要です。しかし、人間が現場に行って技術・技能を磨くことは今後も必要でしょう。AIやロボットはその結果を評価し判断する人間以上の成果を出すことができませんし、サイバー空間を適切に利用できるのは技術者だからです。今こそ人間の知恵の出番。DXはあくまで道具です。フォーラムでは知恵が提供されるべきでしょう。これを可能にするには、今までの内容に加え、国家的な大目的であるカーボンニュートラルを踏まえDXを用いた点検・診断・補修・補強の情報なども必要だろうと思います。

近未来コンクリート研究会代表/コンクリートメンテナンス協会顧問 十河茂幸 氏
誰でも参加でき内容も充実

フォーラムの開催意義
 広島工業大学の着任した頃から、フォーラムへの参加を要請されました。当初は大学での授業などもあり、広島会場のみを担当していましたが、退職後も近未来コンクリート研究会を設立し、この活動とともに、メンテナンス協会の顧問を務め、いまでは、全国のフォーラム会場での講演を担当しています。
 コンクリートメンテナンス協会が一般社団法人化したのが、2011年です。2013年より「コンクリート構造物の補修・補強に関するフォーラム」を全国で開催することになりました。このフォーラムは、全国で100億立米とされるコンクリート構造物の劣化が顕著になったのを延命化することを目的にしており、国の施策をはじめ、点検技術、診断技術、補修・補強技術の最新の話題などが提供されます。誰でも参加でき、しかも無料のフォーラムとしてその内容は高く評価されています。
コンクリート構造物の維持管理技術は、それほど歴史のあるものではありません。公益社団法人コンクリート工学会においてコンクリート診断士制度ができたのが、21世紀に入ってからです。診断技術は進化の過程にあると言っても過言ではありません。特に予防保全として早めの劣化の予測ができる技術に対しては、早急に確立することが望まれます。その意味でも、フォーラムを継続することは意義のあることと考えます。今後もフォーラムを開催し続けて欲しいと思います。

今後への期待
 コンクリート構造物の劣化が顕在化したため延命化が必要とされ、維持管理が喫緊の課題となりました。もちろん健康な構造物も多いことですが、インフラストラクチャーとしては、安全・安心な構造物でなければなりません。また、持続可能な社会として、さらに脱炭素社会の実現のためにも、延命化して健康なコンクリート構造物を維持することは重要です。このフォーラムが、これらの社会の要請に応えるための技術を提供し続けることを願います。
 一般社団法人コンクリートメンテナンス協会が益々発展されることと、このフォーラムが継続することにより、我が国のコンクリート構造物の健康寿命が守られることを期待しています。

極東興和事業本部補修部部長/コンクリートメンテナンス協会技術委員長 江良 和徳

 極東興和(株)は一般社団法人コンクリートメンテナンス協会の設立当初からのメンバーであり、これまで亜硝酸リチウムを用いた各種補修工法の研究開発、実用化、広報普及活動に尽力してきました。また、京都大学の宮川豊章教授のご指導のもとで研究開発した亜硝酸リチウム内部圧入工法の施工にも積極的に取り組んでおり、その施工実績は全国に広がっています。本稿では、コンクリートメンテナンス協会の活動を通じて弊社が取り組んできた亜硝酸リチウム内部圧入工法である「ASRリチウム工法」と「リハビリカプセル工法」に着目し、この10年間の歩みと最新動向について述べます。
 今では広く知られている亜硝酸リチウムによる鉄筋腐食抑制効果およびASR膨張抑制効果ですが、これはコンクリートメンテナンス協会が毎年開催する「コンクリート構造物の補修・補強に関するフォーラム」による影響が少なくないと考えています。このフォーラムを重ねるにつれて、亜硝酸リチウム内部圧入工法の施工数も年々増加しています。これまでの施工数を見ると、フォーラムを始める前の2011年以前は年間1~2件に過ぎなかったのに対し、フォーラム開始後の2012年~2015年では年間12~15件、さらに2016年以降は毎年20~30件の施工を重ねています。補修目的別(劣化機構別)に見ると、2013年まではASR補修としての内部圧入技術「ASRリチウム工法」の採用が圧倒的に多かったのに対し、2014年以降は塩害、中性化補修としての内部圧入技術「リハビリカプセル工法」の採用が徐々に増え、現在ではASRリチウム工法とリハビリカプセル工法の施工数の比率がほぼ半々という状況となりました。
 ASR補修として亜硝酸リチウム内部圧入工法(主としてASRリチウム工法)が採用される背景には、それまでのASR補修の再劣化という現状があると考えています。一般的なひび割れ注入工法や表面保護工法などによって補修しても、ASRの残存膨張性が有害である場合には早期に再劣化する事例が後を絶ちません。もちろん、コンクリート構造物の将来的なASR劣化進行を正確に予測することは容易ではなく、一般的な補修で水分侵入を遮断するだけで十分な補修効果が発揮される場合もありますが、これまでの多数の再劣化構造物が水分遮断によるASR補修の困難さを示しています。そのような背景から、アルカリシリカゲルの膨張反応を根本的に抑制しうる工法として内部圧入工法が採用される事例が増えてきました。
 塩害や中性化の補修として亜硝酸リチウム内部圧入工法(主としてリハビリカプセル工法)が採用される背景にも、同様に補修後の再劣化という現状があります。塩害補修を例にとると、ひび割れ箇所に対してひび割れ注入工法、浮き剥離箇所に対して部分断面修復工法、それに加えて表面全体を表面保護工法にて補修されることが一般的でした。しかし、同じ塩害環境に存在する構造物である以上、断面修復対象から外れた範囲のコンクリートにも高い塩化物イオンが存在しているはずであり、その塩化物イオンによって鉄筋腐食が進行し、将来的に新たなひび割れや浮き剥離が生じることは容易に想像できます。そのため、コンクリート中の全ての鉄筋腐食を根本的に抑制するための工法として、電気防食工法などと並んで内部圧入工法が検討される事例が増えてきました。
 2021年12月現在、亜硝酸リチウム内部圧入工法の施工実績は200件に達しています。その内訳はASRリチウム工法が107件、リハビリカプセル工法が93件です。前述したとおりASRリチウム工法は主としてASR補修として適用され、橋梁下部工(橋台や橋脚)、橋梁上部工(RC桁やRC床版)、擁壁などの施工実績が多く見られます。特に橋台では縦壁背面側からの水分侵入を遮断できないという構造条件から本工法の適用性が高いと言えます。また橋脚では梁部材と柱部材の両方を圧入対象とせず、よりASR劣化が激しい梁部材のみを施工することもあります。近年では送電線鉄塔の基礎コンクリートや工場敷地内の荷揚げ桟橋のASR補修工事への適用なども増えており、公共工事だけでなく民間工事としての施工事例も増加傾向にあります。
 リハビリカプセル工法は主として塩害や中性化の補修として適用され、橋梁上部工(RC桁やRC床版)、橋梁下部工(橋脚や橋台)、ボックスカルバート、RC桟橋などの施工実績が多く見られます。塩害補修でいえば沿岸地域にある構造物だけなく、凍結防止剤の影響を受ける構造物も対象となり、スノーシェッドやロックシェッドに適用される事例も増えています。中性化補修はあらゆる構造物が対象となりますが、最近ではマンションのリニューアル工事の一環として採用されるなど、土木構造物に限らず適用範囲に広がりを見せています。
 現在、亜硝酸リチウムに関する共同研究を岐阜大学、立命館大学、広島工業大学、鳥取大学、徳島大学、福岡大学、宮崎大学、鹿児島大学および琉球大学の各大学と取り組んでいます。また、NEXCOや阪神高速道路などの道路管理者との共同研究も進めています。これらの研究活動を今後さらに推進し、研究成果を蓄積していくことで、亜硝酸リチウムを活用した各種技術のさらなる信頼性向上を図っていきたいと考えています。