高度成長期に大量に造られたインフラが老朽化している。多くは道路などに用いられる橋やトンネルなどのコンクリート構造物だ。放っておけば破損や崩落のリスクは高まり、住民生活に危害を及ぼしかねない。国の公共事業費が再び増える一方、じわじわ進むインフラの劣化対策をどうしていけばいいのか。広島工業大工学部の十河茂幸教授(68)=コンクリート工学=に聞いた。
(聞き手は論説委員・古川竜彦、写真・福井宏史)
-コンクリートの劣化は想定の範囲ですか。
かつてはコンクリート構造物に寿命があるとは考えていませんでした。劣化すると分かっていたが、取り壊したり大規模な補修をしたりするとは想定していませんでした。
コンクリートは水とセメント、骨材となる砂や砂利からできています。押される力には強いが、引っ張られる力に弱い。それを補うために鉄筋を入れます。良い材料で丁寧に施工すれば耐久性に優れた構造物ができます。ただ、どこかのバランスが崩れると、病気になります。主なものには、鉄筋がさびて腐食する塩害と、コンクリート自体が壊れるアルカリシリカ反応があります。いずれも1980年代に入ったころ、各地で問題になりました。
-時期が重なった理由は。
骨材には戦後しばらくまで、川の砂と砂利が使われていました。70年代に入ると枯渇し、代替になったのが砕石や海砂です。しかし砕石の中には過去に経験のない石がありました。ある石に含まれる鉱物がセメントのアルカリ分と反応し、ゲル状の物質ができます。それがコンクリートの中で水を吸って膨張し、ひび割れなどを生じさせるのです。香川県・豊島産の安山岩などが有名です。
-コンクリートクライシスとして社会問題化しましたね。
高度成長期の真っただ中、海砂も洗わないでそのまま使ったものもありました。内部に塩害を引き起こす塩化物を含んだ構造物が多く造られました。山陽新幹線の高架橋などの早期劣化の原因の一つになりました。コンクリートの中では、鉄筋がさびるのをセメントのアルカリ分が防いでいます。しかし、塩化物の割合が一定以上増えると、鉄筋がさび出します。海沿いなら飛来塩分の影響が大きく、凍結を防ぐ融雪剤(塩化カルシウム)も原因です。塩害は時間の経過とともに進行し、インフラの寿命を縮めます。
-どう守ればいいのですか。
高度成長期造られたインフラは、体質的に弱く、建設から50~60年以上たって傷みが出てくるケースが目立ちます。放っておけば、崩壊するリスクは高まるでしょう。ただ、適切に維持管理すれば長寿命化することはできます。まずコンクリート構造物がどんな状態にあるのかを把握することが大切です。国土交通省も2年前、全国に約70万ある道路橋について近接目視による点検を5年ごとに実施するよう義務付けました。ただ、物足りなさも感じています。
-どんな点が不十分ですか。
外観を見て分かるのは、ひび割れや剥落など、相当悪くなった状態です。顔を見ただけで、健康状態のすべてを把握できる医者はいないでしょう。目視だけでは不十分です。いろんな検査をしてデータを調べないと分かりません。今は大丈夫だが、何年後かに劣化すると予測できれば、大がかりな補修も抑えられます。予防保全を徹底すれば、事後対策よりも安くつくケースが多いはずです。
-安倍政権は「国土強靭化」を掲げ、公共事業費の増額にかじを切っていますね。
確かに点検の段階までは予算が付くようになっています。けれども、補修をどうするかは置き去りになっていると感じます。費用対効果を考え、この程度で対応しようという判断が必要になります。ところが、市町村は、専門的な土木技術者が少ないのが実情です。しっかりと診断できなければ、治療法が定まりません。実績も少なく、説得力のある見積もりをつくるのに苦労していると聞きます。
戦後に整備したインフラのおかげで暮らしが豊かになったのは間違いありません。その資産を次の時代へ受け継いでいく仕組みをつくる時でしょう。