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PRESS RELEASEプレス情報

2018年09月13日 カレントひろしま

地域の未来を担う地場企業

2018年09月13日 カレントひろしま | プレス情報 | 福徳技研株式会社―第6回「福徳技研株式会社」―
 第6回は、第26回中国地域ニュービジネス大賞に選ばれた「福徳技研株式会社(代表取締役 徳納剛氏)」です。

福徳技研株式会社
1966年に広島市にて徳納義剛氏(現社長の父)が土木工事を行う福徳開発を設立。その後、塗装業と鉄筋コンクリート構造物の補修工事の分野に注力する。鉄筋コンクリート構造物に亜硝酸リチウムを高圧で注入する「圧入工法」は有効な延命化技術として多方面で採用されている。

◇土木工事業として設立◇
記者の沿革を教えてください。
 1966年に父親が福徳開発という土木工事の会社を設立しましたが、その後、塗装工事を始めて業容が拡大し、1977年に社名を福徳塗装工業株式会社に変更しました。
 私は、大学で海洋土木を学んだ後、アメリカに3年ほど留学しました。1981年に帰国して東京の塗装関係の会社に就職し、宮城県で発電所の塗装などの仕事に携わっていました。1984年に弊社へ入社してからは、工事現場や営業などを経た後、2001年に代表取締役に就任しました。
 その間、バブル崩壊もあって業況が厳しくなり、これまでの事業と少しでも関連がある新たな事業を模索している時に、塗装工事の前にコンクリートなどの下地を補修するという作業工程から着想を得て、コンクリート構造物の補修工事を始めました。ただ、それまでコンクリートの分野は経験がなく、補修工事に取り組み始めたころはあまり仕事もない状態で、工事も失敗の連続でした。
 
徳納 剛 社長

徳納 剛 社長

 
 それでも研究と経験を重ねることで、徐々に技術も向上していきました。そして、鉄筋コンクリート構造物の劣化を防止する亜硝酸リチウムの「圧入工法」を考案して、実用化することができました。2010年に現社名に変更しましたが、現在では塗装工事とコンクリート構造物の補修工事が事業の柱となっています。

◇亜硝酸リチウムの「圧入工法」◇
コンクリートの補修について教えてください。
 セメントと砂利、砂を混ぜたものをコンクリートと言いますが、大前提として知って頂きたいのが、本来コンクリートは石と同じで劣化しないということです。例えば、墓石は100年もたつと風化して表面がざらざらになることがありますが、中身は変わりません。コンクリートも、材料であるセメントや砂利などに問題があれば劣化する場合がありますが、そうでなければ、年数が経っても強度は落ちないのです。
 また、コンクリートの特性として、圧縮には強いのですが、引っ張りには弱いことが挙げられます。例えば、薄いコンクリートはたたくと瓦と同様に、パンと割れてしまいます。
 コンクリート構造物には、鉄筋が入っていないものと入っているものがあります。ダムや堤防など壁厚が大きく重さがあるものの多くは、鉄筋が入っていません。一方で、壁厚が薄い場合は強度を高めるために、コンクリートの中に引っ張りに強い鉄筋を入れています。これが鉄筋コンクリートですが、コンクリートが劣化するときは、中に入っている鉄筋の錆びが原因となることが多いのです。

鉄筋が錆びるのはどういった場合なのですか。
 鉄筋が錆びる要因の1つは、コンクリートの中に塩分が入った時で、例えば、砂利を材料とした時に十分に塩分が取り除かれていなかった場合や、海の側にある構造物などで波を受けて外から塩分が入る場合です。2つ目に、高いアルカリ性であるコンクリートが、二酸化炭素と反応して中性化して、鉄筋に影響した時です。
 鉄筋は錆びると、錆を含めた鉄筋の体積が膨張し、その影響でコンクリートがひび割れたり、剥がれたりしてしまいます。さらに、錆びると鉄の断面は小さくなりますので、鉄筋の強度も落ちるのです。

鉄筋の錆を防ぐため、どうやっているのですか。
 鉄筋の錆びを防ぐ方法の1つとして、「電気防食工法」があります。鉄は微弱な電流を流し続けると錆びないことから、重圧な桟橋など絶対に錆びてはいけないところでとられる方法ですが、イニシャルコストが高く、メンテナンスも必要です。
 もう1つの方法として、鉄筋の錆びを防ぐ亜硝酸リチウム等の活用があります。亜硝酸リチウムは、コンクリート補修用に開発された工業用化学製品で、塩害や中性化などの鉄筋腐食による劣化の補修に長く使われてきましたが、この亜硝酸リチウムを用いた補修技術を「リハビリ工法」と言っています。
 
鉄筋の主な劣化原因と対策

鉄筋の主な劣化原因と対策

亜硝酸リチウム

亜硝酸リチウム

 「リハビリ工法」のなかでは、亜硝酸リチウムをコンクリートの表面に塗って浸み込ませるというやり方が主流です。コンクリートには空隙があるので、亜硝酸リチウムも浸透するのです。ただ、鉄筋まで必要量が到達しているか確認するのは難しいことから、この方法では、補修の間隔を延ばすという一定の効果は得られますが、鉄筋が再劣化する可能性があります。
 このため、お客様から再劣化しないようにできないかとのご意見があり、もっと有効な方法はないかと考えたのが、コンクリートに穴を開けて高圧で押し込む「圧入工法」です。この方法だと、工期内に必要量の亜硝酸リチウムを必要な場所に送ることができます。亜硝酸リチウムの量はコンクリート劣化の具合によって決まりますが、約50センチ間隔で千鳥格子状に穴を開けて注入し続けますので、1週間程度で十分に浸透します。
 
「リハビリ工法」の工法一覧

「リハビリ工法」の工法一覧

貴社ではカプセル式の圧入装置を開発されたそうですね。
 弊社は5年以上に亘り改良を重ねて、加圧注入器「リハビリカプセル」を開発しました。
 
リハビリカプセル施工状況

リハビリカプセル施工状況

 例えば注入口にも工夫を施しています。橋梁を思い浮かべて頂ければと思いますが、補修箇所は上面、側面など様々です。したがって、上向き、横向きにも注入できるよう工夫し、全方向から注入できるカプセルを作りました。手に持っていただくと意外に重いと感じられると思いますが、高圧で注入しますので、カプセルや蓋、その他の各部分が割れないよう強度をもたせるために、かなり研究しました。
 「リハビリカプセル」の制作は、地元のメーカーにご協力頂きました。ものづくりの盛んな広島でないと作ることができなかったのではないかと思います。また、この「リハビリカプセル工法」は、京都大学や広島工業大学と共同で実験してきました。大学との共同研究を行うことで、学会発表などを通じて、世の中に周知されていくと思います。
 
リハビリカプセルの本体と工法概念図

リハビリカプセルの本体と工法概念図

◇コンクリートメンテナンス協会を設立◇
徳納社長はコンクリートメンテナンス協会の会長も務められていますね。
 弊社だけで技術開発や普及に取り組むには限界がありますので、1997年に県内企業21社で広島県コンクリートメンテナンス協会を立ち上げました。その後、県外からのお問い合わせが増えて、全国対応するため2011年に一般社団法人コンクリートメンテナンス協会を設立し、2018年8月現在、108社が加盟しています。
 協会では、コンクリート構造物の補修・補強に関する技術の普及活動やフォーラム、講習会の開催などを行っています。技術研修会での指導などを通じて、「圧入工法」を含めた「リハビリ工法」の普及に努め、コンクリート構造物の延命化につなげたいと考えています。

フォーラムはどのようなものですか。
 コンクリート構造物の補修・補強に関するテーマで講習会などを行っています。毎年、地方整備局のある地域を中心に全国10か所で実施し、1万人程度の発注者やコンサルタント、施工業者の方に参加して頂いています。
 講師には、最先端で活躍されている京都大学、長崎大学、芝浦工業大学、広島工業大学などの先生をお招きしてお話頂いており、補修技術のみならず、コンクリートを取り巻く社会環境を含め、広く知識を得られるフォーラムとしています。

◇コンクリートは補修の時代へ◇
協会として、軍艦島(長崎県)の補修にも関わられているそうですね。
 2014年に公益社団法人日本コンクリート工学会の呼びかけで「端島(軍艦島)における補修材の効果検証に関する共通試験」に参加しました。軍艦島でも、コンクリート構造物保存のために、「リハビリ工法」の採用が検討されています。私自身も軍艦島へ行きましたが、古いコンクリート構造物は大正時代のものもあります。波をかぶるため塩害が深刻ですが、上手く保存して、後世に遺産として残していきたいと考えています。

コンクリート補修の市場は拡大が期待されますね。
 コンクリート構造物、特に橋の耐用年数は50年を目安とされてきました。1950~1970年代の高度経済成長期に、高速道路や鉄道、ダムなどを含めコンクリート構造物が集中的に整備されました。その結果、建設後50年以上を経過する全国の道路橋は2013年に約18%、2023年には約43%と試算されており、老朽化の問題が深刻化しています。
 そこで国土交通省は、既存のインフラ施設のメンテナンスを重視する方針とし、2014年以降は橋やトンネルを5年に1度点検し、老朽化の進行をチェックすることを自治体に義務付けました。さらに、2017年には新設する道路橋について、使用期間を100年に延ばす技術基準を定めています。新設がなくなることはありませんが、今後はコンクリート補修が重要となっていきます。

◇お客様のためになる仕事◇
社是は「誠実、協和、闘魂」と掲げていらっしゃいます。
 私が大切にしていることは、ごまかしは一切許さないということです。塗装の場合、お客様は工事が完了して初めて状態を見られますので、それがどのように塗られたかはわからないと思います。だからこそ、社員には「決まった塗布量を必ず塗る」「雨の日は塗らない」などの決まりを守ることを徹底しています。
 また、「"お客様に言われた仕事"ではなく、"お客様のためになる仕事"をするように」と社員には話しています。良い仕事をするという思いが品質重視の仕事として評価されて、次につながるのだと思います。
 将来のことを考えると人材育成が大事ですので、次世代の育成にも注力しています。社員は20名ほどで平均年齢は30代ですが、技術士やコンクリート診断士といった資格取得を奨励しており、「常にチャレンジしなさい」、「自分で自分の限界をつくってはいけない」と話しています。

次の目標や将来の夢をお聞かせ下さい。
 私はもともと塗装が専門で、コンクリートに関しては素人でしたが、何でも吸収しようという気持ちで取り組んだので、大学と連携した開発などもできました。人生は限られていますから、これからもできることは何でも挑戦したいと考えています。コンクリートはまだまだ発展段階と思っていますし、特に補修に関しては研究の余地が大きく、とても面白いと思いと感じています。
 まずは、弊社が開発した「圧入工法」を世の中にもっと普及させて、コンクリート構造物の延命化を進めたいと思いますし、亜硝酸リチウムを使用した新たな工法も研究し、開発していきたいと考えています。学会などでは、欧州やアジアの研究者から問い合わせを頂いていますので、国内外に広く技術が普及していけばと思います。
 
対談の様子

対談の様子

 
インタビューを終えて
 近年、全国で社会インフラの老朽化が進んでおり、コンクリート構造物がさまざまな要因で劣化している様子が見受けられます。徳納社長はコンクリート補修の必要性、重要性にいち早く気付かれて、その「圧入工法」を早くから提唱され、さらに、協会を設立し、業界での普及にも努められています。
 「自分に限界をつくらない」という言葉のとおり研究を続けてこられたことが、今回の受賞にもつながったと思います。コンクリート補修のソリューションとして「圧入工法」のさらな普及、発展に期待したいと思います。
ひろぎん経済研究所 課長 冬城郁昌