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PRESS RELEASEプレス情報

2018年05月01日 防錆管理Vol.62,No.5,2018

2018年05月01日 防錆管理 Vol.62 No.5 | プレス情報 | 福徳技研株式会社・26年経過した超厚膜形エポキシ樹脂被覆の防食性能
・さび安定化補助処理剤の有効性評価
・亜硝酸リチウムを使用した各種工法による鉄筋 コンクリートの耐久性改善 ( 1 )
  ~亜硝酸リチウムによる鉄筋コンクリートの耐久性改善~
・亜硝酸リチウムを使用した各種工法による鉄筋コンクリートの耐久性改善 ( 2 )
  ~亜硝酸リチウムを使用した鉄筋コンクリートの補修工法~
・環境処理(その 5 )
・Q&A
 気化性防錆包装材の使用方法
・防錆防食用語解説
 アルカリ度

亜硝酸リチウムを使用した各種工法による鉄筋コンクリートの耐久性改善(1)
~亜硝酸リチウムによる鉄筋コンクリ ー トの耐久性改善~

江良和徳

 塩害、中性化、ASRの劣化メカニズムを整理し、各劣化機構に応じた亜硝酸リチウムの補修効果(劣化抑制メカニズム)について詳述する。 塩害及ぴ中性化に対しては、 亜硝酸イオンによる不動態皮膜再生効果を期待しており、 ASRに対してはリチウムイオンによるアルカリシリカゲルの非膨張化を期待している。

 キーワード:塩害、中性化、耐久性、不動態、腐食抑制剤、亜硝酸イオン
 
1.はじめに
 近年、塩害や中性化などの劣化により鋼材が著しく腐食し、ひび割れやコンクリートのはく離などの変状が顕在化しているコンクリート構造物が増大している。 それらは耐久性能や耐荷性能の低下が懸念されるため、 適切な補修工法選定とその確実な施工によって長寿命化、 延命化を図ることが重要である。それら劣化した構造物の補修工法として、表面保設工やひび割れ注入工、断面修復工などの物理的な補修工法、電気防食工法や脱塩工法など電気化学的補修工法、亜硝酸リチウムに代表される防錆剤を活用する補修工法などが多く適用されている。
 ここで、亜硝酸リチウムは鋼材の不動態皮膜再生及びアルカリシリカゲルの非膨張化という2つの効果が期待できるコンクリート補修材料として着目されており、主に塩害や中性化などの鋼材腐食に起因する劣化に対する防錆材、またアルカリシリカ反応(以下、ASRと称す)の膨張剤抑制剤として様々な補修工法と併用又は活用される場面が増えている。
 本稿では、塩害、中性化及びASRの補修材料としての亜硝酸リチウムに着目し、まず塩害、中性化、ASRの劣化メカニズムを整理したうえで、それらの劣化に対して亜硝酸リチウムがどの様に抑制効果を発揮するのかについて論ずる。また、各劣化に対して亜硝酸リチウム必要量を定量的に設定するための考え方についても紹介する。
 
2.塩害及び中性化に対する亜硝酸リチウムの巧化
 2.1 塩害の劣化メカニズム
 塩害とは、コンクリート中への塩化物イオン侵入に起因する鋼材腐食によってコンクリート構造物の性能が低下する劣化現象である。コンクリート中への塩化物イオン侵入経路としては、①沿岸部の海水飛沫や冬季間の凍結防止剤散布などによる塩化物の浸透(飛来塩分)、②海砂や塩化物含有混和剤の使用など、コンクリート材料に由来する塩化物(内在塩分)などが考えられる。そのような原因によりコンクリート中の塩化物イオン量が腐食発生限界濃度を超えた場合、不動態皮膜は破壊され鋼材腐食が生じる。鋼材が腐食すると腐食箇所の体積が2.5倍程度に膨張するため、その膨張圧によってコンクリートにひび割れが発生する。そのひび割れを通じて水分、酸素、塩化物イオンなどの劣化因子の侵入が容易になるため、さらに鋼材腐食が促進され、コンクリートはく離やはく落、鉄筋の断面減少を生じ、構造物の耐久性能及び耐荷性能が低下する。これが塩害によるコンクリート構造物の劣化メカニズムである。

 2.2 中性化の劣化メカニズム
 中世かとは、pHが12~13の強アルカリ性であるコンクリートに大気中の二酸化炭素が侵入し、水酸化カルシウムなどのセメント水和物と炭酸化反応を起こすことによって細孔溶液のpHを低下させる劣化現象である。前述したとおり、高アルカリ環境のコンクリート中にある鋼材表面には不動態皮膜が形成されているが、pHが概ね11以下に低下すると不動態皮膜は破壊され、鋼材が腐食環境下に置かれる。不動態皮膜が破壊された後の鋼材腐食の進行は、塩害の節で述べたとおりであり、鋼材が腐食すると腐食箇所の体積が膨張し、その膨張圧によってコンクリートにひび割れが発生する。そのひび割れを通じて劣化因子の侵入が容易になると、さらに鋼材腐食が促進され、コンクリート浮きやはく落、鋼材の断面減少が生じ、構造物の耐久性能、耐荷性能が低下する。これが中性化によるコンクリート構造物の劣化メカニズムである。

 2.3 不動態皮膜
 塩害及び中性化による劣化とは、いずれも鋼材表面の不動態皮膜の破壊に起因する鋼材腐食の進行に伴ってコンクリート構造物の性能が低下するという点で共通している。本来、高アルカリ環境にあるコンクリート中の鋼材表面には酸素が化学吸着し、緻密な酸素物層が生じることによって不動態皮膜が形成される。
 不動態皮膜の組成は一般的にγ-Fe2O3又はγ-Fe2O3/Fe3O3複合体であるとされている。最近の研究では、高谷らが酸性環境下における不動態皮膜はγ-Fe2O3であり、アルカリ環境下における不動態皮膜はFe3O4であることを示している。健全なコンクリート構造物においては、内部の鋼材はこの不動態皮膜によって腐食から守られている。しかし、コンクリート中に許容濃度(腐食発生限界塩化物イオン濃度)以上の塩化物イオンが侵入した場合、もしくはコンクリートのpHが概ね11以下に低下した場合には鋼材表面の不動態皮膜が破壊され、腐食が開始する。
 このコンクリート中の鋼材腐食は電気化学的反応として図1のように表すことができる。アノード反応は電子2個を鋼材母材中に残して鉄がイオンとなって溶出する反応であり、鋼材が腐食することそのものと言える。このアノード反応によって生じる電子を消費するのがカソード反応である。この2種類の反応が同時に起こるのが鋼材腐食反応であり、反応の進行に従い水酸化第一鉄、水酸化第二鉄、赤錆が形成される。これらの腐食生物の生成過程で生じる体積膨張が、コンクリート構造物の性能低下を引き起こす原因である。

 2.4 亜硝酸リチウムとは
 亜硝酸リチウム(Lithium Nitrite;LiNO2)とはコンクリート補修用混和剤として開発された工業用化学製品であり、その原料はナフサとリシア輝石である。亜硝酸リチウム(LiNO2)は、正の電荷を帯びたリチウムイオン(Li+)と、負の電荷を帯びた亜硝酸イオン(NO2-)とがイオン結合した物質で、水に溶けやすい性質を持っており、亜硝酸リチウム水溶液として製品化されている。濃度は限界濃度である40%を基本としており、色は薄い黄色又は青色の透明な水溶液である。亜硝酸リチウムの成分のうち、亜硝酸イオンは鋼材表面の不動態皮膜を再生する効果があり、塩害や中性化などの鋼材腐食に起因する劣化の補修材料として活用されている。一方、リチウムイオンはアルカリシリカゲルを非膨張化する効果があり、ASR劣化の補修材料として活用されている。写真1に亜硝酸リチウムの外観を示す。

 2.5 亜硝酸リチウムによる不動態被膜の再生
 亜硝酸リチウムの成分である亜硝酸イオンとリチウムイオンのうち、鋼材の防食性改善に寄与するのは亜硝酸イオンである。塩害と中性化は、劣化要因や劣化メカニズムは異なるものの、両者とも最終的には不動態皮膜の破壊による鋼材腐食の問題に帰着する。換言すれば、塩害や中性化による劣化の抑制とは、共に鋼材腐食進行を抑制することと理解することができる。
図1 コンクリート中の鋼材腐食反応の模式図

図1 コンクリート中の鋼材腐食反応の模式図

写真1 亜硝酸リチウムの外観

写真1 亜硝酸リチウムの外観

 亜硝酸イオン(NO2-)による鋼材腐食抑制効果についての研究成果としては、1960年代にインヒビターの研究がなされ、その後1980年代以降にコンクリート中の鉄筋の耐食性向上のため、亜硝酸イオンの適用が検討された。亜硝酸イオンによる鉄筋腐食抑制メカニズムには諸説あり、亜硝酸イオンがアノード型インヒビターとして働く酸化剤としての効果(不動態皮膜再生効果)、亜硝酸イオンが鋼材表面に吸着することにより鉄の溶解を抑制する効果などが提唱されており、それらが複合的に働いている可能性もある。ここで、不動態皮膜再生に着目すると、亜硝酸イオン(NO2-)は2価の鉄イオン(Fe2+)と反応してアノード部からのFe2+の溶出を防止し、不動態皮膜(γ-Fe2O3)として鋼材表面に着床することによって鋼材腐食反応を抑制する。亜硝酸イオン(NO2-)と鉄イオン(Fe2+)との反応により不動態皮膜が再生されると、以後の鋼材の腐食反応は不活発な状態となり(不動態化し)、進行が抑制される。これが亜硝酸イオンによる鋼材腐食の抑制メカニズムである。亜硝酸イオンによる不動態皮膜生成の反応式を図2に、不動態皮膜再生の概念図を図3に示す。
図2 亜硝酸イオンによる不動態皮膜再生の反応式

図2 亜硝酸イオンによる不動態皮膜再生の反応式

図3 亜硝酸イオンによる不動態皮膜再生の概念

図3 亜硝酸イオンによる不動態皮膜再生の概念

 2.6 防食性改善に必要となる亜硝酸リチウム量
 劣化機構が塩害の場合、コンクリート中の鋼材の防食性を改善するために必要となる亜硝酸リチウム量は対象構造物の塩化物イオン含有物に応じて算定することができる。その量に関して、Rosenbergらはコンクリート中の亜硝酸イオンと塩化物イオンのモル比([NO2]/[Cl]モル比)が0.6以上であれば鋼材腐食抑制効果が高いと報告しており、堀らはコンクリート中の亜硝酸イオンの拡散も考慮して、有効な[NO2]/[Cl]モル比を1.0と提案している。それら既往の研究成果に基づき、コンクリート表面から鋼材位置までの塩化物イオン含有量を測定し、それら測定値の最大の値に対して[NO2]/[Cl]モル比が1.0となる量の亜硝酸リチウムを必要量とすることが多い。すなわち、コンクリート中の塩化物イオン含有量が高いほど、鋼材の防食性改善のために必要となる亜硝酸リチウムの量は多くなる。塩化物イオン含有量と亜硝酸リチウム必要量との関係を図4に示す。ここで、図中の亜硝酸リチウム必要量とは亜硝酸リチウム40%水溶液としての量を示している。
 劣化機構が中性化の場合にも同様に亜硝酸リチウムによる鋼材防食性の改善効果は期待できるが、現時点では中性化深さやpHのように中性化特有の測定値と亜硝酸リチウム必要量とが関連付けられていない。そこで、中性化対策として亜硝酸リチウムを使用する場合は、退去の施工実績から塩害対策における塩化物イオン含有量2.0kg/m3に対してモル比1.0となる亜硝酸リチウム量を必要量と経験的に定めることが多い。
図4 塩化物イオン含有量と亜硝酸リチウム必要量との関係(塩害の場合)

図4 塩化物イオン含有量と亜硝酸リチウム必要量との関係(塩害の場合)

 
3.アルカリシリカ反応(ASR)に対する亜硝酸リチウムの効果
 3.1 アルカリシリカ反応(ASR)の劣化メカニズム
 アルカリ骨材反応は、骨材中のシリカ成分とアルカリが反応するアルカリシリカ反応(以下、ASRと称す)と、ドロマイト質石灰石とアルカリが反応するアルカリ炭酸塩反応とに大別されていたが、我が国で見られるアルカリ骨材反応は主にASRであること、また近年ではこれまでアルカリ炭酸塩反応とされてきた反応が実際には石灰石中の隠微晶質石英に起因するASRに帰着する反応であるという報告もなされていることから、本稿ではそれらを総称してASRと記すこととする。
 ASRとは、コンクリート中の骨材周囲に生成したゲル状生成物の吸水膨張反応によってコンクリート構造物の性能が低下する劣化現象である。コンクリートの材料として反応性骨材が使用された場合、コンクリート中のアルカリ金属イオンと反応性骨材中のある種の反応成分とが化学反応を起こし、アルカリシリカゲルを生成する。我が国で確認されている反応性骨材の主なものとして、火山岩が起源の骨材(安山岩、波紋岩など)や堆積岩が起源の骨材(チャート、砂岩、頁岩など)などが挙げられる。アルカリシリカゲルは強力な吸水膨張性があり、コンクリート外部から水分侵入により体積膨張する。このアルカリシリカゲルの膨張によってコンクリート内の組織に内部応力が発生し、反応性骨材周囲のセメントペーストを破壊する。時間の経過に伴ってASRが進行すると、反応性骨材の周囲に発生した微細なひび割れが進展し、やがてコンクリート構造物の表面に巨視的なひび割れが発生する。これがASRによるコンクリートの劣化メカニズムである。ASR劣化の進行過程を図5に示す。
図5 ASRの進行過程

図5 ASRの進行過程

 3.2 亜硝酸リチウムによるアルカリシリカゲルの非膨張化
 亜硝酸リチウムの成分である亜硝酸イオンとリチウムイオンのうち、ASR膨張の抑制に寄与するのはリチウムイオンである。Starkらは、十分な濃度のリチウムがあればアルカリシリカ反応の過程でほとんど膨張しないケイ酸塩が生成されると報告している。また、Thomasらは、LiOHを添加した場合でもASRゲルは生成するものの、これにLi+が作用することで非膨張性のものに変化する可能性が高いとしていると提案している。これらはリチウム存在下でアルカリシリカゲルが非膨張化すると推察するものである。Lawrenceらは、シリカの溶解度はKOH>NaOH>LiOHの順に減少し、リチウムがシリカの溶解性を減少させ、生成物の形成と膨張を抑制すると報告している。このようにリチウムイオンによるASR膨張抑制メカニズムには諸説あるが、本稿ではリチウムイオンがアルカリシリカゲルを非膨張化させるというメカニズムに着目して論ずる。図に示したASRの進行過程のうち、リチウムイオンの存在下では図5に示した第2ステージのアルカリシリカゲルの膨張が抑制される。すなわち、アルカリシリカゲル(Na2O・nSiO2)にリチウムイオン(Li+)が供給されることによって、水に対する溶解性や吸湿性を持たないリチウムモノシリケート(Li2・SiO2)又はリチウムジシリケート(Li2・2SiO2)に置換され、アルカリシリカゲルが非膨張化される。この反応によりアルカリシリカゲルの吸水膨張反応は収束し、以後のコンクリートの膨張は生じない。これがリチウムイオンによるASR膨張抑制のメカニズムである。(図6)
図6 リチウムイオンによるアルカリシリカゲルの非膨張化

図6 リチウムイオンによるアルカリシリカゲルの非膨張化

 3.3 アルカリシリカゲルの非膨張化に必要となる亜硝酸リチウム量
 劣化機構がASRの場合、アルカリシリカゲルを非膨張化するために必要となる亜硝酸リチウム量は対象構造物のアルカリ含有量に応じて算定することができる。その量に関して、Durandらは硝酸リチウム (LiNO3)を用いて ASR膨張抑制効果を得るためにリチウムイオン とナトリウムイオン(等価アルカリ)のモル比 ([Li]/[Na]モル比)0.72 が必要であったと報告している。また、斎藤らは亜硝酸リチウム (LiNO2) を添加した場合、[Li] / [Na] モル比 0.4 で湿空養生及び IN-NaCl水溶液浸漬の養生現境で生ずる膨張を抑制でき、[Li] / [Na] モル比 0.8 では lN-NaOH 水溶液浸漬という苛酷な養生環境で生ずる膨張でさえも抑制できたと報告している。それら既往の研究成果に基づき、亜硝酸リチウムの必要量を [Li]/ [Na] モル比0.8 と定めることが多い。対象コンクリートのアルカリ含有量を測定し、それら測定値の最大の値に対してリチウムイオンとナトリウムイオン(等価アルカリ量)のモル比が 0.8 となる量の亜硝酸リチウムを必要量とする。すなわち、コンクリート中のアルカリ含有量が高いほど、ASR 膨張抑制のために必要となる亜硝酸リチウムの量が多くなる。アルカリ含有量と亜硝酸リチウム必要量との関係を図7に示す。ここで、図中の亜硝酸リチウム必要量とは亜硝酸リチウム40%水溶液としての量を示している。
図7 アルカリ含有量と亜硝酸リチウム必要量との関係(ASRの場合)

図7 アルカリ含有量と亜硝酸リチウム必要量との関係(ASRの場合)

4.おわりに
塩害、中性化、ASRなどで劣化したコンクリート構造物の増加に伴い、亜硝酸リチウムがコンクリート構造物 の補修材料として活用される事例も年々増加している。本稿が構造物の維持管理分野に携わる技術者にとって亜硝酸リチウムを理解するための一助となれば幸いである。
 
 
 

亜硝酸リチウムを使用した各種工法による鉄筋コンクリートの耐久性改善(2)
~亜硝酸リチウムを使用した鉄筋コンクリートの補修工法~

江良和徳

 塩害、中性化の補修工法には、「劣化因子の侵入抑制」だけでなく、状況に応じて「鉄筋腐食の抑制」も要求性能として考慮すべきである。各種補修工法に亜硝酸リチウムを併用することで鉄筋腐食抑制効果を付与したひび割れ注入工、表面含没工、表面被覆工、断面修復工及び内部圧入工について詳細に紹介する。

キーワード:塩害,中性化,耐久性,不動態,腐食抑制剤,亜硝酸リチウム,補修,表面含没工,内部圧入工
 
1. はじめに
 コンクリートは安価で優れた構造材料としてあらゆる社会資本の根幹を成すものであり、戦前、戦後を通じて膨大な量のコンクリート構造物が建設されている。しかし、それら蓄積されたコンクリート構造物は年月の経過とともに老朽化が進んできているのが現状である。さらに、コンクリート内部の鋼材腐食に起因する塩害や中性化、反応性骨材の吸水膨張反応に起因するアルカリシリカ反応など、主に化学的要因によって進行するコンクリートの劣化も深刻さを増している。このように老朽化又は劣化により耐久性能、耐荷性能が低下した膨大なコンクリート構造物を全て更新することは経済的に困難であり、適切な補修を行うことによって構造物の長寿命化、延命化を図ることが急務である。本稿では、主に塩害、中性化で劣化したコンクリート構造物の補修を対象とし、塩害、中性化の補修の考え方 について整理したうえで、それらの劣化補修として活用されている表面含浸工法、表面被覆工法、ひび割れ注人工法、断面修復工法及び内部圧人工法について詳述する。特に、それら各工法において鋼材腐食の抑制効果を有する亜硝酸リチウムがどのように活用されているかに着目して具体的に論ずる。
 
2.塩害・中性化の補修の考え方
 コンクリート構造物に塩害や中性化などの鋼材腐食に起因する劣化が疑われた場合、詳細調査を実施して劣化機構の特定を行う。塩害に関する試験方法としては塩化物イオン含有量試験、中性化に関する試験方法としてはフェノールフタレイン法による中性化深さ試験などが挙げられる。また、塩害、中性化とも鋼材の腐食度の評価が重要であり、はつり調査による鋼材腐食度目視確認に加え、自然電位法や分極抵抗法などの非破壊検査手法を併用することもある。劣化機構が塩害又は中性化であると判定され、補修工法の選定を行う場合、以下のような着目点について考慮することが重要となる。
1) 鋼材位置の塩化物イオン濃度が腐食発生限界濃度を超えているか?(塩害)
2) 中性化残りが発錆限界(例えば 10mm)未満にまで進行しているか?(中性化)
3) 鋼材腐食はどの程度進行しているか?(塩害・中性化共通)
 塩害の劣化因子として塩化物イオンを服視するのは、主にコンクリート中の鋼材位置の塩化物イオン濃度が腐食発生限界を超えるまでの期間である。鋼材位置に腐食発生限界濃度(例えば 1.2kg/m3など)以上の塩化物イオンが侵入し、鋼材腐食環境が形成(不動態皮膜が破壊)された後は、実際に鋼材を腐食させる水分と酸素が主たる劣化因子となる。すなわち、まだ鋼材位置の塩化物イオン濃度が腐食発生限界濃度に達する前の段階であれば、対策工に要求される性能は「劣化因子(主として塩化物イオン)の侵入抑制」となる。また、既に鋼材位置の塩化物イオン濃度が腐食発生限界濃度に達した後でも鋼材腐食がまだ進行していない段階であれば、対策工に要求される性能は「劣化因子(主として水分、酸素)の侵入抑制」とすることができる。しかし、コンクリートにひび割れや錆汁の滲出、コンクリートの浮き、はく離、はく落などの変状が生じている場合には、既に鋼材腐食が著しく進行していることが明らかであるため、この段階での補修工法は「鋼材腐食の抑制」も考慮することのできる補修工法を選定すべきである。
 中性化に関しても同様の考え方ができる。中性化の劣化因子として二酸化炭素を重視するのは、主にコンクリート中の鋼材位置まで中性化領域が進行するまでの期間である。中性化領域が発錆限界位置(例えば中性化残り10mm)まで進行し、鋼材腐食環境が形成(不動態皮膜が破壊)された後は、実際に鋼材を腐食させる水分と酸素が主たる劣化因子となる。すなわち、まだ鋼材位置まで中性化が進行する前の段階であれば、対策工に要求される性能は「劣化因子(主として二酸化炭素)の侵入抑制」となる。また、既に鋼材位置まで中性化した後でも鋼材腐食がまだ進行していない段階であれば、対策工に要求される性能は「劣化因子(主として水分、酸素)の侵入抑制」とすることができる。しかし、コンクリートにひび割れや錆汁の滲出、コンクリートの浮き、はく離、はく落などの変状が生じている場合には、既に鋼材腐食が著しく進行していることが明らかであるため、この段階での補修工法は「鋼材腐食の抑制」も考慮することのできる補修工法を選定すべきである。
 次節より、亜硝酸リチウムによる鋼材腐食抑制効果を考慮した各種補修工法について詳述する。
 
3.亜硝酸リチウムを用いた具体的なコンクリー ト補修工法
 3. 1 表面含浸工法
 表面含浸工法は、コンクリート表面に表面含浸材を塗布含浸させることで塩害や中性化における劣化因子(塩化物イオン、二酸化炭素、水分、酸素)の侵入を抑制する補修工法である。表面含浸工法の主たる目的は「外部からの劣化因子の侵入抑制」であるが、補修材料に亜硝酸リチウムを併用することにより、将来的な「鋼材腐食の抑制」の効果を付与することができる。表面含浸工法は、主としてコンクリート表面にひび割れなどの変状が現れる前段階(潜伏期、進展期)に予防保全的に適用するのが効果的とされているが、鋼材腐食抑制効果を持たせることで、変状が表面化し始めた軽微な劣化程度の段階(加速期前期)に適用されることもある。
 施工手順としては、まずコンクリート表面をサンダーケレン又は高圧洗浄にて下地処理する。次に施工面全体に亜硝酸リチウム系表面含浸材をはけ、ローラー等で入念に塗布した後、けい酸リチウム系又はシラン系含浸材 をはけ、ローラー等で塗布する。コンクリート表面に塗布された亜硝酸リチウムは将来的にかぶり範囲に浸透し、鋼材の腐食抑制(不動態皮膜再生)効果を発揮する。その上から塗布されるけい酸リチウム系含浸材又はシラン系含浸材が劣化因子の侵入抑制効果を発揮する。図1に亜硝酸リチウムを用いた表面含浸工法の概念図を、写真1に施工状況を示す。
 表面含浸工法では、亜硝酸リチウム系含浸材の標準塗布量を 0.3kg/m2と定めることが多い。これは一般条件下での標準的な塗布可能量として経験的に定められた値であるが、塩化物イオン濃度の実測値に応じて亜硝酸リチウム塗布量を定量的に設定する場合もある。亜硝酸リチウムの浸透の目安は6ヶ月間で30mmという実験結果が得られているが、コンクリートの強度や含水状態などの要因によっても影響を受けると考えられる。
図1 表面含浸工法の概念図

図1 表面含浸工法の概念図

写真1 表面含浸工法の施工状況

写真1 表面含浸工法の施工状況

 3. 2 表面被覆工法
 表面被覆工法は、コンクリート表面に有機系又は無機系の表面被覆材を塗布することで塩害や中性化における劣化因子(塩化物イオン、二酸化炭素、水分、酸素)の侵入を抑制する補修工法である。 表面被覆工法の主たる目的は「外部からの劣化因子の侵入抑制」であるが、補修材料に亜硝酸リチウムを併用することで、将来的な「鋼材腐食の抑制」の効果を付与することができる。表面被覆工法は、まだ鋼材腐食が顕在化してない段階(潜伏期、進展期 )で適用する場合だけでなく、鋼材腐食がよりコンクリート表面にひび割れや浮き、はく離等が進行した段階(加速期前期、加速期後期)でひび割れ注入工法や断面修復工法と組み合せて適用されることも多い。
 施工手順としては、まずコンクリート表面をサンダーケレン又は高圧洗浄で下地処理する。次に施工面全体に亜硝酸リチウム系含浸材をはけ、ローラー等で入念に途布した後、亜硝酸リチウムを混入したポリマーセメントモルタル系表面被覆材を中塗り材(主材)としてコテ、はけ、ローラーなどで塗布する。コンクリート表面に塗布された亜硝酸リチウムは将来的にかぶり範囲に浸透し、鋼材の腐食抑制(不動態皮膜再生)効果を発揮する。その上のポリマーセメントモルタル系表面被覆材が劣化因子の侵入抑制効果を発揮する 。また、被覆層を保護するための上塗りを行う必要があり、上塗り材は亜硝酸リチウム含有ポリマーセメントモルタルと相性のよい材料の選定が重要となる。図2に亜硝酸リチウムを用いた表面被覆工法の概念図を、写真2に施工状況を示す。
 表面被覆工法では亜硝酸リチウム系含浸材の標準塗布量を 0.3kg/m2 、亜硝酸リチウム含有ポリマーセメントペーストの標準厚さを2mmと定めることが多い。これは一般条件下での標準的な塗布可能量として経験的に定められた値であるが、塩化物イオン濃度の実測値に応じて定量的に塗布量(又は塗布厚)を設定する場合もある。
図2 表面被覆工法の概念図

図2 表面被覆工法の概念図

写真2 表面被覆工法の施工状況

写真2 表面被覆工法の施工状況

 3. 3 ひび割れ注入工法
 劣化機構が塩害又は中性化の場合、鋼材周囲の不動態皮膜が破壊されたことによって鋼材腐食が進行し、その腐食生成物の体積膨張に起因してコンクリートの表面に鉄筋に沿ったひび割れが発生する(加速期前期、加速期後期)。ひび割れ発生後は鋼材腐食部に劣化因子が侵入しやすい状態となり、以後の鋼材腐食反応は加速するため、ひび割れ注人工法によって開口部を閉塞し、劣化因子の侵入を遮断する必要がある。ひび割れ注入工法の主たる目的は「外部からの劣化因子の遮断」であるが、補修材料に亜硝酸リチウムを併用することで、将来的な「鋼材腐食の抑制」の効果を付与することができる。
 施工手順としては、まずコンクリートのひび割れを通じて亜硝酸リチウムを先行注入する。これによりひび割れ内部をプレウェッティングすると同時に、ひび割れ深部の鋼材腐食部に亜硝酸イオンを供給し、鋼材腐食抑制効果(不動態皮膜再生効果)を付与する。亜硝酸リチウムを先行注入した後、ひぴ割れ内部が乾燥しないうちに 超微粒子セメント系注入材を本注入する。超微粒子セメント系注入材がひび割れ内部で硬化し、ひび割れ部を一体化して閉塞し、以後の劣化因子の侵入を抑制する 。注入作業は先行注入、本注入ともに自動低圧注入器を用いて行う。図3に亜硝酸リチウムを用いたひび割れ注入工法の概念図を、写真3 に施工状況を示す。
 亜硝酸リチウム注入可能漏はひび割れ幅と深さによって決まるため、ひび割れ注入工における亜硝酸リチウム注入量を塩化物イオン濃度などに応じて定批的に注入量を設定することはできない。
図3 ひび割れ注入工法の概念図

図3 ひび割れ注入工法の概念図

写真3 ひび割れ注入工法の施工状況

写真3 ひび割れ注入工法の施工状況

 3.4 断面修復工法
 劣化機構が塩害又は中性化の場合、鋼材周囲の不動態皮膜が破壊されたことによって鋼材腐食が進行し、その腐食生成物の体積膨張に起因してコンクリートの表面にひび割れ、コンクリートの浮き、はく離やはく落が発生する(加速期前期、加速期後期)。そのような状況まで変状が進行した場合、鋼材腐食部には劣化因子が直接供給される状態となり、以後の鋼材腐食反応は著しく加速するため、そのような範囲を断面修復工によって補修する必要がある。脆弱化したかぶりコンクリートを除去して鋼材を露出させ、防錆材として亜硝酸リチウムを塗布した後にポリマーセメントモルタル系断面修復材にて断面を修復することで、以後の鋼材腐食を抑制する。亜硝酸リチウムを用いた断面修復工法では、「亜硝酸イオンによる鋼材腐食の抑制」、「コンクリート脆弱部の修復」及び、それに伴う「コンクリート内部の塩化物イオンの除去」を行うこととなる。
 断面修復工法には、コンクリートの浮き、はく離、はく落箇所のみをはつり取って修復する「部分断面修復」と、かぶりコンクリートを全てはつり取って劣化因子を全て除去する「全断面修復」とがあり、工法も左官工法と吹付工法がある。いずれも施工規模や要求性能に応じて選定することとなるが、一般的に部分断面修復工は左官工法にて、全断面修復工は吹付工法にて施工されることが多い。
 左官工法を例にとると、まずはつり範囲にカッターで縁切りを行い、コンクリート不良部をはつり落とし、腐食した鋼材を完全に露出させる。次に鋼材周囲をワイヤープラシやデイスクサンダーでケレンを行い、腐食生成物(錆)を入念に除去する。その後、防錆材として亜硝酸リチウム水溶液、亜硝酸リチウム含有ポリマーセメントペーストを鋼材周囲とはつり面全体に塗布する。ペーストが完全に硬化しないうちに、亜硝酸リチウム含有ポリマーセメントモルタルにて断面を修復する。このとき、1層の埋め戻し厚さは20~30mm を目安とし、下地のモルタルが十分硬化したのを確認して、次のモルタル層を重ねる。断面修復工法の概念図を図4 に、施工状況を写真4 に示す。
 断面修復材はポリマーセメントモルタルを単体で使用することもあるが、亜硝酸リチウムを混入することでより防鋳効果が高まり、マクロセル腐食を抑制する効果も期待できる。このとき、亜硝酸リチウムの混入量は塩化物イオン量に応じて定量的に設定することができる。
図4 断面修復工法の概念図

図4 断面修復工法の概念図

写真4 断面修復工法の施工状況

写真4 断面修復工法の施工状況

 3. 5 内部圧入工法
 塩害又は中性化による劣化は、いずれも鋼材腐食に起因している。すなわち、塩害又は中性化により劣化したコンクリート構造物の補修とは、最終的に銅材腐食をいかに抑制するかに帰着する。亜硝酸リチウムは鋼材の不動態皮膜再生によって腐食反応を根本的に抑制できる補修材料であり、前述した各種補修工法に亜硝酸リチウムを併用するのはそのためであるが、ひび割れ注入工に併用した場合、亜硝酸リチウムが作用するのはひび割れの先端部にある鋼材のみに限られる。また、断面修復工に併用する場合も、亜硝酸リチウムが作用するのはコンクリートをはつりとった範囲のみに限られる。コンクリート内部の鋼材全てを防錆対象とするために表面含浸工法や表面被覆工法によって面的に亜硝酸リチウムを浸透させることもできるが、これらの工法では浸透可能範囲がコンクリート表層付近に限られるため、下部構造などの鉄筋かぶりの大きな構造物には効果が表れにくい。また、鋼材位置までの浸透に長期間を要する。さらに、塗布可能量には限界があるため、塩化物イオン量から必要となる亜硝酸リチウム量をそもそも物理的に供給できない楊合もある。このように、従来からある各種補修工法 に亜硝酸リチウムを併用することは、各工法本来の主目的(例えば劣化因子の侵入抑制など)に加えて、鋼材腐食抑制効果を副次的な効果として付与するということである。
 それに対し、十分な量の亜硝酸リチウムをコンクリート内部の防錆対象とする全ての鋼材周囲に満遍なく、しかも短期間に供給することができれば、以後の鋼材腐食反応を確実に抑制することができると考えられる。そのための手段が亜硝酸リチウム内部圧入工法である。亜硝酸リチウム内部圧入工法は、劣化したコンクリート躯体に小径の削孔を行い、そこから亜硝酸リチウムを加圧注入してコンクリート内の鋼材周辺部に浸透させる工法であり、亜硝酸リチウムによる鋼材腐食抑制効果を最も積極的に活用する工法といえる。亜硝酸リチウム内部圧入工はもともとASR補修としてリチウムイオンをコンクリート部材全体に浸透させることを目的として検討されてきた経緯があり、注入圧力や注入時間、コンクリート中の浸透範囲などに関する知見はこの過程で蓄積されている。
 施工手順としては、まずコンクリート表面に生じているひび割れをひび割れ注入工法や表面被覆工法で閉塞する。これは亜硝酸リチウムを加圧注入する際に表面への漏出を防止するための処置である。コンクリート表面の漏出防止工が完了した後、ダイヤモンドコアドリルにてφ1Omm の圧入孔を削孔する 。削孔深さは鋼材かぶり深さに応じて設定する。削孔間隔は 500mmの千鳥配置を標準とする。全ての圧入孔に圧入装置を設置し、塩化物イオン量の実測値より算出した亜硝酸リチウム必要量を内部圧入する。注入圧力は 0.5MPaを標準とし、コンプレッサーにて加圧する。圧入期間は注入量やコンクリートの状態によって異なるが、一般的には7~10 日程度となることが多い。内部圧入工が完了した後、圧入孔を充填して施工完了となる。亜硝酸リチウム内部圧入工の概念図を図5に、施工状況を写真5に、一般的な施工フローを図6に示す。
図5 内部圧入工法の概念図

図5 内部圧入工法の概念図

写真5 内部圧入工法の施工状況

写真5 内部圧入工法の施工状況

図6 内部圧入工法の施工フロー

図6 内部圧入工法の施工フロー

4 . おわりに
 亜硝酸リチウムを用いたさまざまな補修工法が実用化されており、その適用事例は年々増加している。それらの補修工法は、構造物の劣化程度、補修の要求性能、補修後の維持管理シナリオなどに応じて適切に選定する必要がある。本稿が、適切な補修工法選定を考えるための一助となれば幸いである。