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PRESS RELEASEプレス情報

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2017年02月01日 日本技術士会中国本部会報No.13

コンクリート構造物の延命化|JCMAと県コンクリ診断士会

2017年02月01日 日本技術士会中国本部会報No.13|コンクリート構造物の延命化|JCMAと県コンクリ診断士会 今回は、コンクリート構造物の補修や補強に従事する企業及び技術者の技術向上や研鑽を目的としたフォーラム・講習会の開催、技術研究及び指導等、精力的に普及活動されている(一社)コンクリートメンテナンス協会会長の徳納剛氏に「コンクリート構造物の補修」について、お伺いしました。

 ◆徳納 剛氏のプロフィール
・福徳技研株式会社代表取締役
(一社)コンクリートメンテナンス協会 会長
・福岡県生まれの広島育ち
・1977年東海大学海洋学部卒
・米国ボストン大学にて「パブリック・コミュニケーション」について修学後、1981年、「福徳塗装」に入社。
 塗装及びコンクリート補修関係の業務に従事する。
・1997年「広島県コンクリートメンテナンス協会」を設立
・2011年「(一社)コンクリートメンテナンス協会」を設立。活動を全国に拡げる。
・2011年「福徳塗装」を「福徳技研株式会社」に社名変更。現在に至る。

1.コンクリートメンテナンス協会の設立
―コンクリートメンテナンス協会は、いつ設立されたのですか?
 まず、1997 年に「広島県コンクリートメンテナンス協会」を立ち上げました。
―当初の活動は広島県だけだったのですか?
 設立時は、広島県内で活動していたのですが、そのうち他県からの問い合わせが増えてきて、2011 年に「一般社団法人コンクリートメンテナンス協会」として設立し、全国展開するにいたりました。
―構造物メンテナンスに携わるきっかけは?
 約20年ほど前になりますが、このころは建設不況の真っただ中で、塗装業、安全施設の会社数社で集まり、各々が関連するもので将来性のあるものがないかと模索した結果、コンクリートの補修にいきつきました。というのは、塗装業はコンクリートに塗装するし、安全の方は当時支承の補修とかジョイントの補修をやっていたものですから、共通するものはコンクリートであり、「それならば、コンクリートの補修の方をやってみよう」ということになって、始めたのがきっかけです。
―具体的には、どういったことから組取まりれたのでしょうか?
 具体的にどういうことをしたかというと、まず、いろいろな勉強会に行きました。その中で、N化学の講師の方が講演されたものに、亜硝酸リチウムという材料の話がありました。当時は全く使われてない材料で、聞いていたらすごく面白く、鉄筋防錆に効果があるという事がわかりました。まぁ単語すらわからなかったんですけど、アルカリ骨材反応(ASR)に効果があるということで、広島に帰ってきて、「ちょっと試してみよう」ということになったんですね。調べてみると、広島はアルカリシリカ反応で劣化したコンクリート構造物が多い地域で、当時はバブルがはじけてたのですけれども、アジア大会の開催準備で割と試験施工やらせてくれたんですね。アルカリシリカ反応で劣化したコンクリート構造物に、亜硝酸リチウムをヒビ割れ注入したり、塗布したりして、施工する、再劣化する、というのを何例か繰り返しているうちに、なんとなく亜硝酸リチウムの効果が分かりだして、「これは使えるな」という自信ができたのです。

2017年02月01日 日本技術士会中国本部会報No.13|写真1.ASRによる劣化

写真1.ASRによる劣化


2 . コンクリート構造物の劣化について
―コンクリート構造物の劣化にはどういったものがありますか?
 コンクリート構造物の劣化というのは塩害と中性化とアルカリシリカ反応、これがもうほぼ9割ですね。これ以外には、下水道施設などでみられる化学的な劣化がありますけれども、陸上にある構造物だと、この3つが主ですね。
 塩害はコンクリートに侵入した塩化物イオンが鉄筋を腐食させ膨張が生じたもので、中性化は強アルカリ性であるコンクリートに大気中の二酸化炭素が侵入し、炭酸化反応を起しpHを低下させ、鉄筋が腐食環境に置かれることになり腐食が生じます。塩害と中性化というのは似たような鉄筋腐食の症状が出てくるということです。
―アルカリシリカ反応(ASR)とは、どのようなものでしょうか?
アルカリシリカ反応というのは、反応性の骨材というのがあるんですね。今は使ってはいけない事になっていますが、昭和40年代後半から50年代最初ごろによく使われていた骨材で、その骨材は水とアルカリ分があると、反応性のアルカリゲルというのが出て、それが吸水して体積膨張する。それでひび割れが起きたり劣化したりします。(写真1)
―劣化原因によって、補修方法は異なるのですか?
 劣化原因ごとの補修というのは、各々方法が変わってきます。私どもは主に亜硝酸リチウムを使用し、それを塗布する、断面修復剤に混ぜる、ひび割れから注入する、そして亜硝酸リチウムを油圧、あるいは気圧で内部に圧入するという工法を使い分けて、経済的な効果も考えながら対策を行います。
―亜硝酸リチウムは塩害、中性化、アルカリシリカ反応すべてにおいて効果があるという事ですか?
 亜硝酸リチウムの亜硝酸イオンが、破壊された鉄の不動態被膜、Fe203と言われていますけれども、再生するという効果があります。リチウムイオンは、アルカリゲル、ナトリウムシリケートやカリウムシリケートにリチウムが置き換わり、リチウムシリケートとなり、水溶性でなく給水膨張しないゲルに代わり、鉄筋腐食反応を抑制します。
 アルカリシリカ反応に対しては、先ほどお話ししたとおり試験施工で効果を確認できました。また、塩害対策にも実際使ってみますと、今までの鉄筋が爆裂したら断面修復するという対処法だけでなく、塩化物イオン量によってどうするかとか、中性化深さによってどうするかということがきちんと計算してできる材料で、効果も十分にあることが分かりりました。
―状況によっては補修できない場合もあるのですか?
 補修ができない場合があるかといえば、あります。例えば、下水の中では亜硝酸リチウムは使えないという事があります。一例ですが、それは亜硝酸が硫化水素等と反応したらNOxガスになって、有毒ガスになるため、使えないなどですね。
 あと物理的にも不可能な場合もありますね。例えば水を止めようと思っても、橋台の奥の水は土があるから止められないなどですね。工法を考えながらやらないといけない場合があります。
―要注意のケースが出てくるということなのですね。
 はい。ケースによって、よく見極める必要があると思います。
―補修したコンクリートの強度自体は、どうなのでしょうか?
 コンクリートの強度は復活しません。
―腐食したところの劣化を抑えるという事ですか?
 基本は、鉄筋の劣化を現状で止めようということで、アルカリシリカ反応による膨張を今の現状で止めようという考え方です。

3.実例について
―補修工事を行うにあたって、特に重要な事は何でしょうか?
 まず大切なのは、現状を十分把握したデータを取ることです。例えば塩害であれば、塩化物イオン量をきちんと測定して、それにどう対応するのかということ。それと対象となる構造物の重要度などが必要だと思います。したがって、現状把握と将来的に構造物をどう使いたいのかという事などの筋道を立てて、補修のシナリオをきちんと確立しておくべきだと思います。
―調査も協会で行ったりするのですか?
 調査の方は行いません。調査は事前に専門の調査会社が行い、その調査結果に応じて、どのように補修していくかということになります。
―主に補修工事の対象となるのは橋梁が実績としては一番多いのですか?
 橋梁などの土木構造物が多いです。ただ最近、建築構造物の話も出てきています。実際に建築物というのは、50年の寿命で作っているものを更に50年使いたいという要望が出てきています。去年は四国の鬼北町の庁舎の補修を行ったのですが、それは築50年たっており、文化庁がらみでもう50年使いたいということでした。その他としては、長崎の軍艦島の構造物補修にもかかわっています。
―特に難しかった事とか苦心した事とか、そういったものはありますか?
 特に難しかったことは、最初の頃の事ですね。もう二十数年前になりますけれども、N化学というメ―カ―の方から話を聞いて、「亜硝酸リチウムを表面に塗れば中にしみこんで、イオン拡散するので、鉄筋防錆とかアルカリシリカ反応の対策ができるよ」と言われたのですが、土木構造物の場合、壁厚が厚く1mから2mあるものに外から塗っても奥まで行くのに、1年で5cm浸透したとしても、何十年もかかるんですね。再劣化、絶対するわけですよ。実際にやってみても再劣化するし、ならばどうするかというので、亜硝酸リチウムの圧入という工法を考えたんです。穴をあけて無理やり物理的に亜硝酸リチウムを入れるというやり方です。この方法であれば、壁厚が2mであろうと4mであろうと、工期内に亜硝酸リチウムが必要なところに必要量届くので、きちんとした対策ができるようになったという事がありました。
―では、逆に失敗事例などは何かありますか?
 最初の頃は、失敗事例ばっかりですね。ですので、当時、N化学と一緒にやっていた会社が全国に数社あったのですが、最後に残ったのはうちだけで、他は皆やめていきましたね。当時、発注者が協力的でしたのでがんばることができ、今では全国展開するに至っています。
4. 今後の展望について
―これからの維持管理業務の課題をお聞かせください。
 これからの維持管理業務の課題というのは、その構造物を健康な状態で長寿命にさせるということが必要で、それにどれだけお金をかけてどのように対処するか、という事がすごい大切なんだなと思っています。やはり、特に設計者の方が、僕が言うのもおかしいんですけど、正しい知識を身に付けていただいて、正しい工法で、健康な状態で延命化させることを考え、そして実行する事が大切なのではないかなぁと思います。でも、決して僕らの亜硝酸リチウムを使って下さいというのではないですよ。
―そのために何か活動されている事は?
 「コンクリ―ト補修・補強に関するフォーラム」というタイトルでフォ―ラムを年間20回くらい開催しています。今年の参加者は全国で4千人を超えています。
―かなり精力的に活動されているのですね。
 今の問題点は、「コンクリ―トを補修する」という事を考え出してそんなに年月が経ってないんですね。したがって、割と材料から入る方が多いんですよ。材料っていうのは数百あり、劣化のメカニズムがあって、劣化因子があって、それの腐食発生限界値といわれる数値があって、それより上か下かという間題があります。その当たりから入ってくると、使える材料ってすごく限られるんです。だから、補修のシナリオというのを考えて、補修材料、補修工法を検討するというのが、とても大切な事だと思います。
―財政事情とかもあり、コストの面で縮減方法とか取組が必要ではないかと思いますが。
 コストというのはすごく大切な要因だと思っております。予算がなければ、最低限で次の補修の周期を伸ばす方法というのを考案すべきだと思います。
 従来の工法だと10年毎に行っていたものを工法を変えて15年毎に行うとか、再劣化は許容するけれども、なるべく延命化を図っていくとかです。
 他には、普通の橋梁とか構造物の重要度を考えて、重要なものからやっていくという事です。例えば、「ある橋梁の向こうに3軒しか家がなく利用頻度が少ないのに、この橋梁に多額の費用を掛けますか」、それは効果的ではないということです。やっぱりコストはとても大切だと思います。
2017年02月01日 日本技術士会中国本部会報No.13|写真2. インタビュー状況

写真2. インタビュー状況


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● インタビューの感想
 高度成長期に築造された多くの構造物は、耐用年数を迎え、改築• 更新が課題となっています。バブルがはじけ、景気が悪くなった頃に行動に移され、失敗事例も含め多くの経験を積み重ねてこられた徳納会長のお話を聞きながら、時代の流れにうまくはまった事例ではないかと感じてしまいました。
 徳納会長は、温厚な人柄で落ち着いた雰囲気の中でインタビューさせていただきました。今後のご活躍を期待いたします。